毎年今頃の季節になると思い出すのが、この本です。
予知能力を持つ幼い少年が主人公。彼の父親は、一冬の管理人として、冬期に閉鎖される山のホテルに妻と少年とともにやってきます。実はこのホテルには邪悪な意思が存在していて、父親はその影響により徐々に... というホラー。
いくつかの前触れとなる事件が起こった後、少年はある秋晴れの日に母親と下の町に買い物に下りてゆきます。大寒波到来が予報され、明日からホテルは雪に閉ざされて、外部との交通や連絡が遮断されるのです。この日は最後の秋の日であり、少年と母親にとっては事態から逃れる最後のチャンスの日なのですが、幼い少年にはなすすべもなく過ぎてゆきます。この日のゆったりした素晴らしい上天気の描写が、翌日からの運命の暗転を際立たせ、逆に予感させるのです。
季節の移り変わりが穏やかな日本ではなかなか想像しにくいことですが、それでも季節の終わり頃に絶好の秋日和に遭遇すると、この小説のその場面を思い出します。
と、ここまで書いたところで、小説のその部分を改めて読んでみたのですが、特に描写に力が入っているようではありませんでした。大きな転換点という様子でもないし、私の中で鮮明だった印象が色褪せて感じられました。むしろ、なぜその季節を代表するようなイメージに膨れあがったのか、自分の気持ちに不思議さを覚えました。